前回のコラムでは、運転資金を「売掛金+在庫−買掛金」と簡単に書きました。今回はもう一歩踏み込んで、「では、自社にはいくら必要なのか」を考えます。
まず、定義を正確に確認しておきます。
運転資金需要 = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
売上債権は売掛金と受取手形、棚卸資産は商品・製品・原材料などの在庫、仕入債務は買掛金と支払手形です。所要運転資金とも呼ばれ、回収と支払いの時間差を埋めるために必要な資金を指します。お金そのものは入っては出ていきますが、事業を回している限り、この額は常に必要になります。
「月商の何か月分か」で捉える
運転資金需要は、金額そのものより回転期間で見ると、会社の構造がよく見えてきます。
運転資金需要 = 月商 × (売上債権回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 仕入債務回転期間)
各回転期間は、それぞれの残高を月商で割ったものです。ここでは簡便のため、いずれも月商を基準にしています。棚卸資産と仕入債務については、売上原価や仕入高を基準にする方法もあります。
月商が同じでも、1億6,000万円違う
たとえば、月商8,000万円、年商にしておよそ10億円の会社が二つあるとします。
A社は、売掛金が月商の2か月分、在庫が1か月分、買掛金が1か月分。差し引きで月商の2か月分、1億6,000万円が、運転資金として常に必要になります。
B社は、売掛金が1か月分、在庫が半月分、買掛金が1か月半分。差し引きすると、ほぼゼロです。
同じ規模でも、取引条件と在庫の持ち方で、これだけの差が生まれます。
売上が伸びると、増加運転資金が生まれる
売上の増加に伴って生じる運転資金の増加分を、増加運転資金といいます。取引条件が変わらなければ、運転資金需要は売上に比例して増えていきます。
A社の売上が2割伸びれば、増加運転資金はおよそ3,200万円です。これを利益でまかなえなければ、手元の現金を削るか、外部から調達するしかありません。B社では、ほとんど生まれません。
売上目標を立てるとき、あわせて増加運転資金を計算している会社は、多くありません。
そして、運転資金がショートすれば、黒字であっても会社は立ち行かなくなります。いわゆる黒字倒産です。
利益を出している会社が、資金繰りだけで行き詰まる。そうした会社を、なくしていきたい。私は、その思いで企業の皆さまと向き合っています。
ご相談では、今後の売上の見通しとあわせて、増加運転資金についてもヒアリングさせていただきます。
金額より、回転期間を見る
逆に、回転期間が短くなれば、運転資金需要は減ります。A社で売掛金の回収が半月早まれば、4,000万円の資金が一度に解放されます。
取引条件は相手があることなので、簡単には変えられません。ただ、在庫をどこまで持つか、回収のルールをどう定めるかは、自社で決められる部分もあります。
手元にはどれくらい置いておくか
では、実際に手元資金はどれくらい持っておけばよいのか。
一般には、最低でも月商の1.5か月分、できれば3か月分といわれることが多いです。
ただし、建設業のように回収までのサイトが長い業種では、月商の6か月分ほどを必要とする会社もあります。回転期間が長いほど、同じ月商でも常に必要となる資金が多くなるからです。
目安は、あくまで出発点です。最終的には、自社の回転期間から考える必要があります。計算そのものは、直近の決算書が1期分あればできます。ただ、この数字は取引先の構成や季節によって動くため、最新の試算表で確かめておくと、より実態に近い数字になります。
そして、増加運転資金を何でまかなうのか。多くの会社では、ここで借入が関わってきます。借入については、次回あらためて書きます。
