会社を経営していると、提案を受ける機会が絶えません。金融機関、保険会社、証券会社、各種の専門家。どれも、それ自体は真っ当な商品であり、制度です。

私も、かつては提案する側にいました。2017年に金融業界へ移ってから、法人の資産形成、リスクマネジメント、役員退職金、事業承継といったテーマで、多くの経営者とお会いしてきました。

その中で、だんだんと引っかかるようになったことがあります。

手段が、先に決まっている

提案の場では、たいてい「何を使うか」から話が始まります。この制度が使える、この商品が向いている、と。

けれども、その会社にとってそれが本当に必要なのかを判断する材料が、その場にないのです。

必要かどうかは、会社の状況によって変わります。手元にどれくらい現金があるのか。事業を回すのに運転資金はいくら要るのか。借入の返済が、この先の資金繰りにどう効いてくるのか。利益はどこから出ていて、その利益に再現性はあるのか。

これらは、決算書と試算表を読めば、かなりの部分がわかります。逆に言えば、それを見ないまま「良い提案かどうか」を判断することが、私にはできませんでした。

だから、順番を変えることにしました。

決算書は、棚に戻すものではない

決算書は、税務署に出すための書類だと受け止められていることがあります。実際、多くの会社で、決算書は決算のときにだけ開かれて、あとは棚に戻ります。

けれど決算書は、その会社が一年かけて出した結果を、共通の形式で記録したものです。3期並べれば、何が伸びて、何が痩せてきたのかが見えます。売上が増えているのに現金が残らない会社には、残らないなりの理由が数字に出ています。借入と返済のバランスも、そこに書いてあります。

過去の記録であることは、そのとおりです。ただ、これから何を選ぶかを考えるときに、これ以上に確かな材料を、私は知りません。

遠回りに見える順番

初回のご相談で、私が最初にお願いするのは提案書ではありません。決算書です。3期分あれば十分です。数字を拝見しないまま、私からお話しできることは、ほとんどありません。

そのうえで、何が本当の課題なのか、どこを目指すのかを整理します。商品や制度の話が出てくるとしても、それはずっと後のほうです。

遠回りに見えるかもしれません。ただ、順番を守ったほうが、結果として早い。それが、これまで多くの会社の数字を見てきたうえでの、私の実感です。